Burned Out

心が折れたお話

アクアプール エッセイ

バイクが好きです。
長いコト乗ってきましたが、特にオフロードバイクが好きで、山を走ったりモトクロスをやったりして、いろいろな経験をしました。
ここ数年は競技用のバイクを手に入れてコース走行なんかを楽しんでいましたが、齢五十を超え、はしなくもエンデューロレースに挑戦をするコトになりました。

初めのレースは新潟県にあるスキー場です。
風薫る5月。天気も良く、頂上からは日本海も見えたりして素晴らしいロケーションです。まあ、景色を楽しむような余裕はありませんでしたけど。
残雪消えやらず、所々に泥濘が残ってはいますが、ハイスピード設定の広大なコースにはさほどの難所もなく順調に走ります。
2時間もの長丁場を走るなんてどんなコトになるか想像もつきませんでしたが、無事に完走。人生初エンデューロもまずまず楽しめました。

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次のレースは長野県のスキー場とその周辺の山々。
8月の暑いさなかではありますが、高地なんで涼しいだろうと思いきや、昨夜来の雨もあって随分とムシ暑い。
陽射しが出たかと思えばパラパラと降り出したりして、何だか妙な天候です。
別クラスのレースを終えてピットに戻ってきた泥だらけの選手達が、口々に「今日はヤバイよ!」なんて言ってます。コースマーシャルも「今回のコースは大変だよ」って嬉しそうです。
もう、イヤな予感しかしません。
スタート前の整列中にもバラバラッと降り出したりして、不安な気持ちをいやが上にも盛り上げてくれます。

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いざスタートしてゲレンデを駆け上り、しばらくは順調に走りますが、いよいよ最初の難所を迎えます。
石がゴロゴロとしている上り坂です。コース幅は広く斜度もさほどでは無いので勢いを付けて登って行きますが、なにせ石がアチコチに動くので真っ直ぐに走れません。
多くのライダーがスタックしているのを避けつつ、なるべくスピードを落とさないようジタバタしながら登って行きます。
いったん止まってしまうと再発進が大変なんですよね。
でも、石に弾かれて「アッ!」と思うまもなくコケます。
私も一度コケましたが、なんとかスタートしてまた走りはじめます。

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いよいよ最大の難所であるウッズセクションに入りますが、ここは木立に囲まれた丘のような地形になっていて、木々の間を縫うように登って行きます。
一見何て事なさそうなんですが、先に出走した数百台のバイクによってコースはヒドく荒れていて、至る所で木の根っこがむき出しになっています。
この根っこが氷のように滑るので、嵌まってしまうと抜け出すのに四苦八苦します。
さらに良さげなルートには丸太が斜めに置かれ、泥の付いたソイツに乗り上げると簡単にコケます。
楽をさせないようイヤらしく設定されたセクションは、ライダーの体力をジワリジワリと奪って行くのです。
もう、こんな主催者のおもてなしにはウンザリです。

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ここで幾度コケたか。
バイクを起こすにも足元がぬかるんでいるので、下手をするとバイク諸共に倒れます。根っこに嵌まったバイクを持ち上げたりもします。
泥が付くとバイクが重くなるのでフェンダー裏にワックスを塗ったりしてあるんですが、もうドロドロです。
重くなったバイクを何とか引き起こし、キックスタートができる場所まで引きずって行ってエンジンを始動させます。
が、数十メートルも行かないうちにまた転倒。でキックキック・・・。こんなコトを繰り返している間に、もうヘトヘトになります。
あたりは多くのライダーによって七転八倒、阿鼻叫喚の様相を呈しています。2サイクルエンジンが吐き出す煙が充満し、暑さと湿気も相俟って息も絶え絶えに・・・。
一緒に出走した仲間がいみじくも言った「一生分コケたー!」。むべなるかな我が同士よ。

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這々の体でこの緑の地獄を抜けましたが、この後もあちこちで転倒し、スタックして体力を使い果たし、もう無理!
リタイアする気満々でゲレンデを駆け下りてくると、チェックポイントが見えて来ました。
バイクに取り付けたデバイスで周回数や順位なんかを管理していて、あそこを通過すれば次の周回に入ります。
何だか体力もチョット回復してきたような気がします。「もう一周行っちゃおうかな~、無理かな~」なんて迷いつつも・・・行っちゃいました。
行っちゃったはイイものの、当然の如くコースの状態は前にも増してヒドい状態になっていて、またしても七転八倒、阿鼻叫喚・・・そして疲労困憊の精疲力尽。
もう「絶対リタイアしてやる!」のつもりでゲレンデまで戻って来ましたが、チェックポイントが見えて来ると「もう一周頑張っちゃう?」なんて悪魔の囁きが頭をよぎりました。
でも、「戻って来られる体力は残っているのか?」との思いに至ったその時、「ポッキーン」という音が聞こえました。ハイ、心が折れたんですね。

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バイクを止めると仲間がペットボトルを差し出してくれました。その冷たい水のなんと美味かったことか!
飲料水の携行はレギュレーションで決まっており、私もサプリメント入りのハイドレーションバッグを背負っています。
口元まで伸びたチューブで走行中でも水分補給が出来るようになっていて、既に1.5ℓほど飲んでいたんですが、冷たい水は本当に美味しくて、まさに生き返るような心地でした。

ピットに戻り、ボロ雑巾のようになった体を椅子に沈めます。
暫しの後「さて一服」と起き上がろうとするも体が動かない。極度の疲労と共に熱中症になりかけていたんでしょう。
しばらく休んでいると回復しましたが、熱中症で救急搬送された方もいたようです。さもありなん。

少なからず驚いたのが、新潟・長野のレースともにエントリー数が500台を超えていた事です。
ロケーションの良さ、レースフォーマットがしっかりしていて、誰でもエントリー出来る気軽さが人気の要因だそうです。
少なくない費用と時間をかけて参加し、さらには泥にまみれ息を切らし疲れ果て・・・、何を好きこのんでこんなコトをとも思いますが、世に好事家はいるものですな。
まあ、余人は知らず、遊びは真剣にやるからこそオモシロいんですよね。
そして懲りない面々は、翌年宮城県で開催された8時間耐久レースに出場したんです・・・。


これでいいのだ。

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