Learn to Fly

ヘリコプターや小型飛行機のライセンス取得にまつわる様々な事ども

記述は1990年当時を思い返しながらの筆者の主観であり、異見もあるかと思いますが、まず、笑って見逃して下さい。

アクアプール エッセイ

"Certificate"

私は、アメリカで小型の固定翼機(いわゆるセスナですね)と回転翼機(ヘリコプターですね)の免許を取得しました。
免許証の類はどんな物であれ手にした時は嬉しいものですが、この免許証そのものが日米の違いを如実に語っているようで実におもしろいんです。
日本の免許証は、”自家用操縦士技能証明書”という金文字が書かれた立派な手帳になっていて、開いてみると写真の下に「航空法第23条の規定により、これを交付する」とあります。
次をめくると、限定事項・種類・等級・形式などを記述する欄があり、最後に航空局の印鑑がデンと押されています。
いかにもお上によって下された、アリガタイモノという感じです。
アメリカの、と言えば、送られてきた一枚の紙から自分で切り取るようになっているだけなんです。ペラペラの紙っ切れです。
「これはただの通知書ではなかろうか?」と思ったほど簡単な物です(後年はカード式になって私も発行してもらいましたが)。内容もかなり違います。
ヘリコプターの話ですが、原則的に制限重量以下であればジェットエンジン・ピストンエンジン問わず、なんでも乗れちゃうんです。
まあ、実際には「さあ乗ってみろ」と言われても、はいそうですかと簡単にいくものではありませんが、少なくとも資格の上ではOKとされているんですね。

アクアプール エッセイ

"Examination"

アメリカ在住経験のある方は、日本とはあまりにも違う、”おおらかさ”や”いいかげんさ”というものに一喜一憂された事があるかと思います。
固定翼機の学科試験を受けた時のことです。
初めての英語での試験なんで、少なからず緊張していました。
試験官が入って来てテスト用紙を渡しながら注意事項を述べると「終わったら呼んでね」と言うなり部屋から出て行ってしまったんです。
後に残されたのは2人の受験生だけです。「カンニングし放題じゃん」と思いつつ机に向かっていると、今度は教官と生徒の2人連れが入って来るなり講義を始めたんです。
これが、こちらの事なぞいっこうに構わぬ様子で声高に喋る喋る。
こっちは気になってしょうがない。文句も言えずテストは何とか終わらせたんですが、腹立たしいやら呆れるやら、なんともはや、でした。

航空身体検査でのことです。
これは医者との会話を通じて、簡単な英語のチェックも兼ねています。
ここで「こいつは英語が出来ない」と判断されてしまうと、免許の上で大きな差し障りがあります。
どんな事を聞かれるんだろとドキドキしていると、「日本で一番大きな島はなに?」と聞かれました。ハテ?と思いを巡らせているうちに、ハタと思いついて言ってみました。
「Honsyu?」
「Very good!」
そう、彼らにとって見れば本州も島なんですね。

アクアプール エッセイ

固定翼機の実地試験でのことです。
私がベースとしていた空港はトーレンスという街にあり、試験は近くのロングビーチという空港で実施するので飛行機で行かねばなりません。
こちらはまだスチューデントパイロットでありますから、当然インストラクターと一緒に行くつもりでいました。
ところが、試験当日になるとインストラクターが、なにやら用事があるから一人で行けという。ロングビーチ空港はさんざん訓練したところであるから大丈夫だ、と宣うのです。
エエー!確かにイヤになるほど通ったけど、1人で行くのは初めてじゃん!旅客機がブンブン飛び交うとても忙しい空港なのに・・・。と胸に一抹の不安を抱えながらも、なんとか無事に到着しました。


実地試験の前に、オーラル(口頭試問)なるものがあります。
これはヘリコプターの試験でのエピソードですが、そのオーラルでのこと。
ヘリコプターには様々な物理的現象による固定翼機と違った難しさがあるんですが、この時はそのうちの一つについて説明せよと言う。
私は困った。私の訓練機にはその現象が構造的に起こらないので、あまり勉強していなかったのです。
しどろもどろになりながら何とか答えようとしていると、「その現象は君の機体では起こるのか?」と聞いてきた。
渡りに船とばかりに答える。
「No!!」
「Good!」
なんと優しい試験官であることか。

アクアプール エッセイ

話は固定翼機の試験に戻ります。
さんざん待たされたあと、オーラルを終えて飛び上がります。
飛行試験のいろいろな項目をこなし、さあ着陸という段になると試験官が「ショートフィールドランディングで降りろ」と言う。
これは短い距離で止まるためのやりかたで、そのための訓練は積んでいるんですが、ただでさえ難しい着陸なのに、いきなりこんな事を言われてはプレッシャーはいや増すばかりです。
いよいよ滑走路が近づいてきたその時、ちょっと貸してみろと試験官が操縦桿を握るや、それはそれは見事なショートフィールドランディングを披露してくれました。
そう、披露してくれたのです。私の試験なのに・・・。
さすがに上手いが、と思いつつ隣を見ると、「ドーダ、スゲーダロー」と言わんばかりの得意満面です。
これはラッキーなのか、いや、せっかくその気でいたのに、などと頭の中は混乱しつつも無事に試験は終わったのです。

アクアプール エッセイ

「君も今日からパイロットだ」と仮の免許証を手渡され喜びも束の間、ふと外に目をやると、すでにとっぷりと暮れているではありませんか。
これから夜の空をトーレンスまで帰らなければなりません。非常にマズイ事になりました。
なぜマズイのか。これには説明が要ります。
LAの市中にあるような空港は街の灯りに埋もれてしまい、見つけ難いことが一つ。
また、フレアという着地寸前の機首起こしのタイミングが難しいのです。
そして、夜間飛行の訓練はインストラクター同乗でしか行わない。つまり私はこれまで一人で夜空は飛んだことがないんです。
でも、免許を手にした瞬間から私は昼でも夜でも飛べるパイロットになっちゃったのである。飛んで良いのだ。しかし・・・。

件の脳天気試験官もさすがに心配顔です。
「何なら一緒に飛んでいってやろうか?帰りは車で送ってくれればいいよ」
少々ビビりながらも「だいじょうぶですっ」と、強気に飛び立ちました。
強烈に美しいLAの夜景を眼下に見ながら、なんとか無事に着陸してハンガーに戻って来ました。
肩から大きな携帯電話を提げて待っていてくれた友人たちが着陸灯の灯りの中に見えたときは、じつに嬉しかったのを覚えています

アクアプール エッセイ

"First Solo"

どうも固定翼機の話が多くなってしまいますが、初めて自分だけで空を飛んだのも固定翼機です。
免許を取るまでにはいくつか節目がありまして、最初にやって来るのが”ソロフライト”といわれる単独飛行です。
”クロスカントリー”がその次に来ますが、その中でもいわゆる”ロングのクロカン”は、ほぼ半日かけて長距離の飛行をします。
そして、最後が免許取得の瞬間です。
それぞれに違う種類の感動があり、何が一番嬉しいものかと問うても、人によって答えが違うでしょう。
”ロングのクロカン”は、自分の力でここまでやって来たという喜びがあるし、試験に合格してパイロットになれた時は、なんともいえず晴れがましい気持ちになるものです。
しかし、私の答えはなんといっても”ファーストソロ”。
あの日のことは、思い出しただけで幸せな気分になれるほどの鮮明さで私の脳裏に焼き付いています。

アクアプール エッセイ

同乗飛行での訓練のあと、「これからソロだ」とインストラクターに言い渡されました。
予感はあったものの、"いざ"となると心臓を掴まれるような不安がこみあげてきます。
「下着はきれいな物を着けているだろうか」などと妙な事を考えてしまう。家族の事もちらりと頭をよぎります。
天気は快晴、他の飛行機も少なく、絶好の"ソロ日和”であります。
いつもより入念にランナップをして、いよいよ滑走路を走り始めます。
と、飛行機がやたらと軽い。隣に巨漢のインストラクターがいないためです。少々戸惑いながらもふわりと飛び上がって、アップウィンド、クロスウィンドと高度を上げてゆきます。

この間は高度も低くスピードも無いなかで次々とターンしなければならないので、緊張MAXです。何かあると非常にアブナイ時間的状況なんです。
ちなみに、ここらへんでエンジンが止まったら、アップウィンドの時は滑走路の延長線上にある貯水池へ、クロスウィンドの場合は平行している道路へ降りろ(落ちろ?)と教えられています。
間違っても滑走路に戻ろうとするな、ともキツク言われます。なぜかというと、飛行機はスピードがない時にターンしようとすると、たちまち失速してしまうんです。
そんなこと言われたって、すぐ後ろにある滑走路に戻ろうとするのが人情というものですが、離陸時の事故はこれで起きる事が多いんですね。私もこのような事故で知人を失っています。

アクアプール エッセイ

幸いエンジンも止まらずダウンウィンドまで到達し、スロットルを絞って水平飛行に入りました。
ここで、ようやくあたりを見回す余裕が出てきます。
隣にはいつものでかいヤツがいないので、ラダーもやたらと軽い。
私は一人で空を飛んでいるのだ!
「!!!!!」と絶叫し(何を叫んだのかは覚えていない)、しばらく夢気分でいましたが、フト我に返る。
そう、隣を見ても誰もいるはずがない。自分でこの飛行機を降ろさなければならないのです。
スロットルをさらに絞り高度を下げていきますが、ベースに入るときもファイナルのターンも「はい、曲がってー」とばかりに管制官が教えてくれます。普段には無いコトであります。
妙に親切だなと思いつつ無事着陸すると、スピーカーから管制官の「Congratulation!!」という声が聞こえてきました。
まわりでなにやら騒いでいる様子も伝わってきます。
いつもは恐い管制官(と思っている)が、私のファーストソロを祝福してくれているのでした。


ファーストソロの後には手荒い祝福が待っている。と言う話を聞いていました。
プールに投げ込まれるかバケツで水を掛けられるか、やりかたは様々であるとも聞いていました。
私の場合は、ちょっと風変わりでした。
着ているTシャツを脱がされ、背中の部分を切り取り、居合わせた連中が好きなことを書いてゆくのです。
気に入っていたTシャツだったのでかなり抵抗したんですが、寄ってたかって脱がされてしまい、むりやり"記念品"にさせられてしまいました。
今でも手に取ると顔もほころんでくるような、思い出の詰まった懐かしい"記念品"であります。

アクアプール エッセイ

"Fixedwing & Rotorwing"

固定翼機(ここで言う固定翼機とは、セスナに代表される小型飛行機である)とヘリコプターの違いは、自動車とオートバイの違いに少し似ていると私は思います。
固定翼機は、たとえ4人乗り程度の小さなものでも実用性がある。荷物を積めるとか操縦安定性が良いなどの意味です。だから遠距離の飛行ではこちらの方が楽だし、経済的でもあります。
特にレンタルの料金が格段に違います。
例えば4人でセスナを借り、夕暮れの海岸線を1時間ほど飛んで、郊外の空港内にあるレストランで食事を取る。
LAの宝石を散りばめたような夜景を楽しみながら帰ってきても、往復2時間の飛行ですから、現在の為替レートで計算すると、一人あたま約¥4,500程度です。
90年代はもっと安かったのです。今は昔、バブルによる円高のおかげですね。
日本では考えられないような話ですが、彼の地では贅沢な事でもなんでもないんです。
州をまたいで旅行したり、メキシコなんかにも行っちゃいます。
ヘリで同じ事をすると、ざっと4倍はかかります。
ですから、固定翼機の連中は何を好き好んでヘリコプターみたいな危なくて金のかかる物を、という顔をします。

アクアプール エッセイ

多くの人は、もしヘリコプターのエンジンが止まったら石のように落ちてしまうと思っているでしょう。
でも、実際にはエンジンが止まってもローター(回転翼)はフリーに回る仕組みになっていて、揚力も発生するしコントロールも効くんですね。
これをオートローテーションと言いますが、竹とんぼがフワリフワリと落ちてくるのを想像してもらえば良いと思います。
もちろん落ちてゆく事には変わりがないけど、着陸する場所を探す時間はあると言うことです。
固定翼機はエンジンが止まっても高度の6倍の距離を滑空できるとされていますが、こちらは着陸に広い場所を必要としますね。
ヘリの方が多少は自由度は高いのですが、いずれにしても高度というものは大事であり、パイロットは、”Altitude is your friend”(高度はあなたの味方)と表現するのです。

アクアプール エッセイ

ヘリコプターの事故は、多くの場合危険な場所を低い高度で飛ぶ事が原因で起こります。
海上や山間での救助活動を想像してもらえば理解し易いでしょう。
極低速時やホバリング(空中停止)の時はエンジンのパワーをフルに使い、高度や速度も余裕が無いので、外的要因に対して非常に脆いのです。
しかし、このような状況での仕事はヘリコプターにしか為し得ないものであり、故に危険性も高いのですが、これは宿命と言わざるを得ません。
ヘリコプターの仕事は、物資輸送・農薬散布・送電線パトロールなど多岐に渡りますが、やはり白眉は人命救助でしょう。
独自の飛行特性であるホバリングやAgility(機敏さ)をもって幾多の人命を救い、時に自らを犠牲にしながらも、健気に活躍するヘリコプターとパイロット達に、私は尊敬の念を禁じ得ないのであります。


ヘリコプターはメインローターの回転面を傾けることによって飛んでゆく方向を決めます。
ですので、ホバリングしたりバックしたりといった芸当もできるのです。
また、多くのヘリコプターは後ろに小さなローター(テールローター)を持っています。
このテールローターが、メインローターが回る事によって胴体が反対方向に回ってしまう、という現象を抑えているのですね。
常に一方向に回ろうとする胴体をテールローターの推力でコントロールして、その力加減によって機首方向を決めているという事なんです。
ゆえに、機首方向と実際に飛んでゆく方向は違うという飛行(横向きに飛んでいるのがこの状態である)も出来るのです。
空中でエンジンが止まった場合、 固定翼機は水平飛行中であれば、各コントロールから両手両足を放してしまってもとりあえず真っ直ぐ飛んでいられます。
ヘリコプターでは、即座に対処しなければ、クルクルと回りながら落ちてしまうんです。

アクアプール エッセイ

私はオートバイも好んで乗りますが、これは人の手に依らないと立っている事もできません。
人や物を載せて長距離を移動するといった事も、クルマほど安楽にはゆかないんですね。
ガソリンタンクの下に常に爆発を繰り返すエンジンを抱えながら、むき身で走る危険極まりない乗り物ですが、それが故に人間の原始的な本能を覚醒させる快感に満ちているのです。
そして、これらの宿命を背負う事でクルマにはあり得ない様々な特性を得ているのです。
元来不安定なモノを操作によって安定させ、さらにそれを操作によって不安定な状態にする事で俊敏な動きを可能にするといった作用と、それに伴う操縦の快感が両者に共通する事柄の一つであると思います。

アクアプール エッセイ

個人的には、低高度を飛べるという事がヘリコプターの魅力の一つであると思っています。
地域にもよりますが、500ft~1000ft(150~300m)を飛ぶことが多いんです。
LAでいえば、ハリウッドサインの前をゆっくりと飛び、ダウンタウンのビル群をぐるっと廻ってみる。
ビーチに沿って砂浜にいる人たちを横目で見ながら、また、砂漠にある干上がった川を舐めるように飛び、そのスピード感を堪能するといった事も出来てしまうんです。

私はパイロットという人種の端っこに名を連ねているに過ぎない存在ではありますが、空を飛ぶ事の魅力をほんの一部分でも伝えることはできるかと思い、これをしたためました。
拙い文章ではありますが、これを読んだ方がほんの少しでも空を飛ぶという素晴らしいことに興味を持っていただけるのであれば幸いです。

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